廻文詩

橘在列の五言律詩 本朝文粋 巻1 雑詩 廻文詩

寒露暁霑葉 晩風涼動枝 残声蝉*彗彗 列影雁離離 

蘭色紅添砌 菊花黄満籬 団団月聳峰 皎皎水澄池

 * 「彗」の文字はこれに「口偏」が付きます。表示できませんでした。

ここでこの漢詩を取り上げたのは、この詩に「廻文詩」という題詞が付けられているからです。

私自身が回文に興味をもって、回文短歌などを作っている関係で、この漢詩はやはり「気になる」歌です。

いま世間ではちょっとした回文ブームなのだそうで、「美しい国は憎いし苦痛」などと国会質議のなかにまで使われています。

少し前まで「回文」というと、「何それ、怪文?」などと言われかねなかったのですが、最近はやっと「回文」という言葉も世間に認知されるようになってきました。

この回文という言葉がどこから来たのかというと、もともとは中国の漢詩のなかで使われていたものです。

私は漢詩に詳しくないのですが、詩吟をなさる方で漢詩にも造詣が深い方から、古い中国の回文詩を紹介していただきました。「題金山寺」というものです。

日本でも平安時代に入って、回文の漢詩を作り始めたようです。

「本朝文粋」(ほんちょうもんずい)という漢詩集は1058年のものです。

それ以前の漢詩集、「懐風藻」(かいふうそう)751年や「文華秀麗集」818年などを調べたのですが、回文と題された詩はありませんでした。

おそらくこの橘在列の漢詩が、記録に残されている中での日本最古の回文だと思います。

当然「回文」という言葉の初出もこの漢詩の題詞ということになります。

漢詩ですから一文字が一語を表している関係で、日本でいう回文とは異なります。

言ってみれば正逆で二詩が成立しているといった感じになります。

これなら日本語の回文より簡単に出来るなどと思ったら大きな間違いです。

韻をそろえたり、平仄をそろえたり、他にも難しい法則があって、普通に漢詩を詠むだけでも大変なことです。それを逆読みでも成立するようにするのですから、想像もつきません。

正 寒露暁にして葉を霑(ぬら)し、晩風涼しくして枝を動かす。

   声を残す蝉彗彗(けいけい)、影を列ねる雁離離(りり)。

   蘭色(らんしょく)紅にして砌(みぎり)に添はり、菊花黄にして

     籬(まかき)に満つ。

   団団として月は嶺に聳え、皎皎(けうけう)として水は池に澄む。

逆 池澄みて水皎皎(けうけう)、峰聳え月団団。

   籬(まかき)に満つ黄花の菊、砌(みぎり)に添はる紅色の蘭。

   離離(りり)として雁影列なり、彗彗(けいけい)として蝉声残る。

     枝動きて涼風晩れ、葉霑ひて晩露(ぎょうろ)寒し。

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