但馬皇女に長歌一首
君の見き 山沿ふ杣や 別れ川 儚き仲は 今朝は裂け
枯れぬ木末か 離れなば 二つ身伝ふ 術も経ず
鳥鳴くなりと 眺むかな 叶はぬ花か 他人に問ひ
尽きなく泣きつ 痩せる背や な泣きそ着なな
添えぬ絹衣ぞ
きみのみき やまそふそまや わかれがわ はかなきなかは
けさはさけ かれぬこぬれか はなれなば ふたつみつたふ
すべもへず とりなくなりと ながむかな かなはぬはなか
ひとにとひ つきなくなきつ やせるせや ななきそきなな
そえぬきぬえぞ
反歌一首
いつぞつい 流る春かな 分かちがわ 嘆きそ聞けな
残し来し娘の
いつぞつい ながるはるかな わかちがわ なげきそきけな
のこしきしこの
答歌一首 穂積皇子に擬えて
山の間や 手と手持てとて 放れなば 妹をし念い
幾年と悔い
やまのまや てとてもてとて はなれなば いもをしをもい
いくとせとくい
一句毎が回文です。
但馬皇女は高市皇子の宮にありながら(妻)、穂積皇子と激しい恋に落ちる。この三人は実はすべて天武天皇の子であり、異母兄弟同士。
持統天皇は高市皇子の体面を慮って、穂積皇子を滋賀の山寺に遠流とします。